ブダペストには元々1泊の予定だったが、特に急ぐ必要もなかったので、
延泊してドナウ川の対岸のお城へ行ってみることにした。
チケット代を節約し館内には入ることは叶わなかったが、外観からでもハプスブルク家統治時代の建築美を堪能することが出来た。
海なし国あるあるとして、夜にはドナウ川がまるでビーチのようにパーティー会場と化していた。
ワルシャワで見た光景と同じである。
川岸には何隻もの大型船が横付けされ、船上では若者たちがDJに合わせて踊っている。
私はその輪に加わることはなかったが、町の若者の活気に少し元気を分けてもらえた気がした。
宿に戻ると、次の目的地を考え始めた。
明日はブダペストを出ようと思っていた。
以前出会った旅行者に、ハンガリーではティファニーという小さな町をお勧めされていた。
調べてみると、ティファニーはブダペストから南西方向にあり、そのままクロアチアへと入るルートになる。
私はトルコをヨーロッパ旅行の折り返し地点と決めていたので、一旦クロアチアへ行くと、陸路でトルコまで行くのが遠回りになってしまうという難点があった。
反対にトルコ目指して進むとなると、南東へ行くことになるのだが、ハンガリーで他に特段行きたい場所は思いつかなかった。
ネットで色々と検索していると、ブダペストからルーマニアのブカレストへ行く夜行バスを見つけた。
旅を出てすでに3週間経過しており、そろそろ折り返し地点に到達しておくべきだろうか、という焦りが頭をかすめた。
残り5週間に迫った残りの旅をゆったり過ごすためにも、ここは時間とお金を節約しよう、私はそう思い立ちブカレスト行の夜行バスのチケットを予約した。
その晩、共有スペースで夜ご飯を食べていると、壁に描かれた言葉に目が留まった。
そこにはこう書かれていた。
"旅は必ずしも美しいものではない。旅は常に快適なものでもない。時には傷つき、心が折れることさえある。でも、それでいいのだ。旅はあなたを変えるだろう。それはあなたの記憶に、あなたの意識に、あなたの心に、あなたの身体に痕跡を残す。あなたはそこで何かを得るだろ。そして願わくば、何かをそこに残していって欲しい"
誰の言葉かは知らないが、彼もしくは彼女の言うことは痛いほど理解出来た。
まだ3週間しか経っていないこの旅で、人の親切に助けられたこともあれば、冷たくあしらわれたことも何度もあった。
悲しい気持ちになる度に私はこんなところで何をしているんだろうと自責の念に駆られた。
旅先では、何のために旅行しているんだと聞かれることが何度かあった。
その都度私は自問自答した。
いつも適当に答えてはぐらかしていた。
だけど、この言葉を見て、すっと胸に落ちるものがあった。
私は私の意識や身体に刻み込まれる"何か”を探しているのだと感じた。
そして、この言葉は旅行中に私の脳裏に焼き付いて離れなかった。