バッドゴイスラムに別れを告げ、列車でウィーンへと向かった。
ヨーロッパの駅のホームは未だに慣れない。
駅には基本的に改札がなく、列車内で車掌が切符の拝見をして回るのだ。
なので短距離を乗る場合だと、車掌とかちあう前に乗降出来てしまう。
これはトラムの時も同様だ。
トラムだと基本的に短距離なので、無賃乗車を試みる輩が多い。
私はそんな無賃乗車マンが失敗して、しぶしぶお金を払うのを何度か見てきた。
ウィーンまでは列車で3時間30分で着いた。
今夜の宿はa&t Holiday Hostel。
1泊3,500円程度とウィーンにしては安いのだが、今回の宿選びは失敗してしまった。
市街地からかなり遠く、トラムを使わないと30分以上歩く必要があるのだ。
私はトラムが大の苦手である。
2回に1回は間違った行先のものに乗ってしまう。
それに、ユーレイルパスの適用外ということあって乗車賃をわざわざ払うのが惜しいというのもあった。
そういうわけで、私は40分かけて市街地へと向かった。
町を散策するときに特に気にしているのは、宿周辺の治安の良し悪しである。
安い宿はあまり治安がいい場所に建っておらず、大体移民街の近くである。
決して人種で判断したくはないが、移民街では路上で寝る人も多く夜間の治安はあまりいいとは言えない。
ウィーンは中央駅を境に、北は美術館や高級ブティックなどの繁華街エリア、南はイスラム系の移民エリアとほぼ完全に分かれている印象を受けた。
私の宿は南側にあったので、夜はなるべく早く帰ろうと急ぎ足で市街地へと向かった。
ウィーンに来た唯一の目的は、クリムトの接吻を見ることである。
しかし、世界中から来た観光客で混み合った館内ではとても静かに鑑賞することは出来なかった。
一体いつから絵の前でセルフィーが出来るようになったのだろう。
スマホを片手にレンズ越しに絵を鑑賞する姿を見て、私はうんざりしてしまった。
結局接吻もちらっと見ただけで、足早に美術館を後にした。
ウィーンの街並みはどことなく既視感があった。
ドイツ語が公用語というのもあるのだろう。
ベルリンと似ているな、とどこを歩いても思ってしまった。
心地よい天気で、公園では大勢の人が芝生の上で思い思いに過ごしていた。
私もそれに混じって公園で寝っ転がった。
次はどこに行こう。
クリムトの接吻も見てしまったし、ウィーンは1泊で十分な気がしていた。
ここから一番近いのはハンガリーだ。
だが、南へ行ってスロベニアを経由してクロアチアに行くという選択もある。
私はこの旅ではすべて陸路をとることにしていたので、目的のない国を経由することは出来るだけ避けたかった。
また、クロアチアに行ってしまうと、そこから東へ行くのが難しくなってしまう。
ボスニアヘルツェゴビナやセルビアなどのバルカン半島は治安があまり良くない。
それにバルカン半島を旅行したことのある人から聞くに、あまり目ぼしい観光地がないようである。
考えぐねいていると、ふと名案が頭に浮かんだ。
ハンガリーには温泉がある、はずである。
温かいお風呂!
日本に出てからシャワーだけで、しばらく湯舟に浸かっていなかった。
私はお風呂に飢えていたのである。
そういうわけで、明日は一路東へ進み、温泉に入りにいくことにした。