鈍行列車 ヨーロッパ編

欧州2ヵ月一人旅

チェコ プラハ① Shall We Dance?

電車に揺られること7時間。

ついにプラハへと到着した。

 

車内では実に楽しいものを見せてもらった。

私の3つほど前の席に、偶然乗り合わせた若い男女がいた。

男性が女性に話しかけたことをきっかけに彼らは破竹の勢いでしゃべり始めた。

私は好奇心から、読書をやめて彼らの会話に聞き耳を立てた。

どうやら男性のほうはクラクフからプラハの家へと帰る途中であること。

女性のほうはドイツの大学生でプラハへ旅行に行くらしいことが聞き取れた。

2人の英語がとても速く、完璧に聞き取ることは出来なったが、彼らが互いに惹かれ合っているのは誰が見ても明らかであった。

その様子を見ていると、ふいに「ビフォアサンライズ」を思い出した。

ヨーロッパの長距離列車で偶然乗り合わせた2人が、ある町で一緒に降車することを決め、朝日が昇るまでともに過ごすという映画である。

3列前の彼らもどうやらプラハで落ち合う約束をしているらしい。

私はラブロマンスの序章を観れた気がして、満足した気持ちでプラハ駅に降り立った。

 

今夜の宿は「Clown and Bard Hosetl」。

6人部屋で1泊435チェココルナ、日本円にして2,770円である。

ポーランドに続き、チェコも独自の通貨を使用している。

やはり自国の通貨を使用している国はユーロ圏内の国と比べて、幾分物価が安いような気がして安心した。

 

チェックインすると近所をあてもなく物色した。

宿は市街地から駅をはさんで反対側にあったので、周りは住宅だらけであった。

私はアパートの1階に入っている感じのよい店を見つけ、おもむろに入ってみた。

公園に面してテラス席に座り、私はビールと牛肉のワイン煮にダンプリングを頼んだ。

ダンプリングはクラクフで食べたことがあったので、安心して頼んだのである。

しかし出された料理はまったくの別物であった。

牛肉のワイン煮のお皿に丸いパンのようなものが添えてある。

どうやらこれをダンプリングと言うらしい。

恐る恐る食べてみたが、これが正解であった。

もちもちとした食感のパンはメインの料理とよく合い、私はあっという間に平らげてしまった。

お会計をしようと店内に戻ると、列車の中で見た青年がカウンターに一人で座っていた。

隣に彼女の姿は見当たらない。

彼女と会えなかったのだろうか。それとも今から会いに行くのだろうか。

私は心の中でそっと彼にエールを送った。

 

店を出ると、夜の8時を回っていた。

日の長いヨーロッパではやっと夕暮れ時である。

目の前の公園では10人くらいの男女がフォークダンスの練習をしているらしい。

ベンチに腰掛けその様子を見ていると、先生らしき30代ほどの男性が近づいてきた。

彼は私に右手を差し出した。

Shall We Dance?」と言われたかどうかは覚えてないが、このシーンに吹き込む言葉はそれ以外見つからない。

私は彼の引く手に身を任せ、ワンツーワンツーとリズムを合わせる。

そうして、なんとかイーグルスの「ホテルカリフォルニア」に合わせてダンスを踊りきることが出来た。

ダンスが終わるとみんなで拍手をして解散した。

チェコ初日にしては出来過ぎくらい良い日であった。

そして列車の中で出会った彼らも、今頃再会して良い日を過ごしていてほしいと願わずにはいられなかった。

プラハ 住宅街の公園