電車に揺られることおよそ30分。
マンハイム駅へと到着した。
ホームの表示は「Mannheim Hbf」。
「Hbf」は中央を意味する「Haupt」と駅の「Bahnhof」を組み合わせている。
つまりマンハイム中央駅ということだ。
なるほど中央というだけあって、予想よりも遥かに大きな駅であった。
駅から本日の宿「ホステル マンハイム」までは歩いて約20分。
6人部屋ドミトリーで一泊34€、日本円にして約5300円。
円安ということを加味しても決して安い金額ではないが、ヨーロッパ初めての宿ということで奮発してしまったのだ。
MAPS.MEを片手に歩きだす。
MAPS.MEとはオフラインでも使える地図アプリである。
予め行きたい場所の地図をダウンロードしておけば、ネットがない環境でも使用できるバックパッカーの強い味方である。
学生時代に知り合った元バックパッカーのおじさんに教えてもらっていたのだ。
ただし、このアプリを信頼し過ぎると後々痛い目を見ることになるだろう。
駅や大型スーパー、高級ホテルなどはアップデートされているが、バス停や小さな小売店・レストラン、ゲストハウスなどはまったく載っていない。
実際、旅の前半はこのアプリに頼り切っていた私だが、後半になってくると、迷ったら迷ったときだと開き直り、使用頻度は日に日に減っていった。
宿に到着すると、朝の10時だというのに30代後半と見えるお兄さんが爽やかな笑顔で迎えてくれた。
最も西洋人は見た目よりも大人びて見えるので実際はもっと若かったかもしれない。
私は荷物を預けると、いよいよ町へと繰り出した。
マンハイムは爽やかな風が吹いており、街路樹のマロニエが太陽に照らされて白く輝いていた。
私は町の中心地まで歩いていき、トラムの駅を探した。
トラムは日本でいう路面電車にあたる。
ヨーロッパの地方都市ならば地下鉄よりもトラムの方が圧倒的に普及している。
ひとまずホームでチケットを購入し、ハイデルベルク行きのトラムを探していたが、いっこうに見つからない。
もういっそのこと乗ってしまえ、と思い切って次に来たトラムに乗ってみた。
しかし、行けども行けどもハイデルベルクにたどり着かない。
宿のお兄さんは、ネッカー川沿いに進んで15分ほどでハイデルベルクへ到着すると言っていたはずだ。
ところが、15分経っても30分経っても川なんてどこにも見当たらない。
私は手に汗を握りながら窓の外をじっと睨みつけていた。
40分経ったところで、半ば諦めがついた。
もしこのトラムがハイデルベルクまで行かなくたって、それが何だというのだ。
困ったらまた反対車線で同じ番号のトラムに乗ってスタート地点に戻ればいいだけなのだ。
開き直ってみると、落ち着いて窓の外の景色を眺めることが出来た。
マンハイムの郊外は、ほどよく山や畑、90年代の建物が混在しており、とても美しかった。
人々の営みを縫うように進んでいくトラムは、初めて来たヨーロッパという町をつくづ眺めることが出来る、私にとっては観光列車のようなものだった。
1時間ほど経っただろうか。
人通りの多い「ビスマルクプラッツ」で降りてみると、なんとそこがハイデルベルクの旧市街の入り口だった。