旧市街は大勢の人で溢れていた。
カフェやレストランでは石畳の路地にテーブルを出し、人々は思い思いにお茶やお酒を楽しんでいた。
私は路地裏に小さなアンティークショップを見つけ、少し早いが旅の思い出としてポストカードを探した。
この旅で決めている数少ないルールの1つに、訪れた町でポストカードを買うというものがる。
このルールを定めた理由は主に私の厳しい懐事情からきている。
キーホルダーやマグネットなど1つ1つは安価でも、数十個となれば懐を圧迫することは目に見えている。
そのうえバックパック1つで旅行している身としては、出来る限り身軽でありたい。
そういうわけでハイデルベルク城が写された少しレトロなポストカードを1€で購入し、私は店を後にした。
ハイデルベルク城までは旧市街から歩いて30分程度だ。
半ば登山道のような道を進み、城塞から眼下を見下ろしてみると、そこには中世の美しい街並みが広がっていた。
ネッカー川沿いにレンガ造りの建物が立ち並び、アーチ型の橋が町と町をつないでいる。
なんて美しいのだろう。
初めて来たヨーロッパ。初めてきたドイツ。初めてきた町ということもあって私はすっかり興奮してしまった。
この先この旅でどんなところに行っても、どんな絶景に出会っても、この町で見た景色は忘れないだろう。
旅先で見る景色は何を見るか、誰と見るかも大事だが、一番大事なのは「誰が見るか」ではないだろうか。
その日はそんな感傷的なことを考えながら、ゆっくり宿への帰路についた。