マンハイム2日目。
朝10時頃に宿のルーフトップでくつろいでいると、遠くほうで教会の鐘が鳴った。
この町の住民にとっては日常に溶け込んでしまう微かな音なのだろう。
しかし今朝の私の耳にはとても新鮮に響いた。
宿のお兄さんによれば、この宿はオープンして約1ヵ月らしい。
兄弟で運営しており、弟の彼が接客担当なのだという。
コロナが終わり、観光客が戻ってきた時機を見てやっと開業にこぎつけたそうだ。
しかし場所柄だろうか。
ゲストはドイツ人や近隣の西洋人が多く、アジア人は私だけのようだった。
どこから来たのか。
その声にふと顔を上げると、50代くらいの男性がこちらを見ている。
しばらく話を聞いたところ、彼はイラクから車の輸入関係の仕事で頻繁にドイツに来ているという。
マンハイムは何度も来ているので、美味しい店に案内してやると言う。
私は彼の言葉に乗り、一緒に宿を出た。
彼が連れて行ってくれたのは、ハラールフードのお店であった。
昨日の食事はスーパーで簡単なパンやリンゴで済ませいたので、今回がこの旅初めてのレストランになるはずだった。
ドイツまで来てハラールフードか、と思わないでもなかったが彼の好意に素直に従ってみることにした。
大豆のミートボールのようなファラフェルとケバブライスを食べ、食後にはトルコチャイを出す店に行った。
店の中は見事に中東系やトルコ系の人ばかりで、西洋人は全くいない。
アラビア語なのだろうか。
彼らの会話は全く分からなったが、私を歓迎してくれていることは伝わってきた。
私は礼を言い会計をしようとすると、女主人が首を振った。
お店のおごりだという。
他の国から来た客からはお金を取らない。
それがイスラームの優しさだ、と。
そういえば先ほど昼食を取った店でも、イラク人の彼がご馳走してくれていた。
私は厚かましくもその言葉に甘えて、「シュクラム」アラビア語でありがとう、と言い店を後にした。
そして次回こそは、必ず自分のお金でドイツの料理を食べるのだと心に強く言い聞かせた。