鈍行列車 ヨーロッパ編

欧州2ヵ月一人旅

ドイツ ケルン 魔の日曜日

ドイツ3日目。

この日はケルンへと向かった。

ケルンはあの荘厳な大聖堂で有名な町である。

駅を出ると、すぐそこに大聖堂がそびえ立っていた。

高校生のときに世界史の教科書で見たケルン大聖堂

噂のとおり、柱やステンドグラス手すりまでもが見事に装飾されたゴシック様式の教会であった。

だがそれよりも私が興味をひかれたのは、教会前の広場に出来た人だかりだった。

どうやら男が路上パフォーマンスをしているらしい。

彼は様々な国の国旗をチョークで描き、中央にウクライナの国旗と「Peace」の文字を添えた。

1年前の2月にロシアがウクライナへ侵攻し、たくさんの戦死者が出た。

そしてその戦争は今でもなお続いている。

ウクライナの国旗の上にチップを入れる箱を置いているあたり、まったくの正義感からパフォーマンスしているとは思えないが、胸打つものは確かにあった。

 

今夜の宿泊先のデュッセルドルフはケルンから電車で1時間もあれば着く。

日暮れまではまだ時間があったので、ケルン市内を散策することにした。

どこか安そうなレストランで昼食でもと思っていたが、いっこうに開いている店が見つからない。

それもそうである。

今日は日曜日であった。魔の日曜日である。

ヨーロッパでは日曜日はほとんどのレストランが休みになる。

日本人からしたら、せっかくの休日に開店しないなんてもったいないと思うかもしれないが、彼らからしたら日曜日に働くなんてありえないのだそうだ。

安そうなケバブ屋は何軒か見つけたが、2日連続でケバブは面白くないので、諦めずにケルンの町をどんどん西に進んで行った。

 

しばらくすると、左手に大きな公園が見えてきた。

近くまで行ってみるとどうやら巨大な墓地のようである。

お参りでもないのに不謹慎かなという思いもあったが、犬の散歩をしている人や自転車で敷地内を通り抜ける人がいたので、思い切って足を踏み入れていた。

墓地は想像以上に広く、何世紀も前に亡くなった人の巨大な墓や戦死者をまつったような共同墓地もあった。

巨大な木々から木漏れ日が差し込み、まるで森の中を散策しているような錯覚を覚える。

日本の清閑な墓地もよいが、自然の中にひっそりと共存するヨーロッパの墓地は、お参りにくる人々の心も癒してくれるのではないだろうか。

 

ケルン駅へと戻りながら、再び安そうなレストランを探しはじめた。

しかし営業中なのは、ケバブ屋か高級そうなレストランばかり。

まったく魔の日曜日である。

そうこうしているうちに駅に着いてしまったので、仕方なく構内のスーパーで昼食を買い、広場で食べることにした。

サラダボウルとビール。ご馳走ではないが食欲を満たすには十分だ。

ケルンではケルンビールが有名なそうなので、昼だというのにビールの小瓶を1本買ってしまった。

広場の階段に腰を下ろし、瓶のふたを取ろうとするがなかなか上手くいかない。

四苦八苦していると、後ろから声をかけられた。

彼らは瓶を渡してみろとジェスチャーをする。

私が手渡すと、彼らはライターを使って軽々と開けてくれた。

 

心地よい風が頬をかすめ、少しぬるくなったビールが喉を潤してくれる。

夕暮れに大聖堂の前で飲むビールは私の心を癒してくれた。

Melatenfriedhof 墓地