今朝は早起きして、スーパーで食料を買い込み、町はずれの丘へと登った。
昨日の散歩中にふと顔を上げると、町の南側の小高い丘にポツンと家が建っているのに気付いた。
調べてみると、どうやら教会が立っているようだ。
高さ的に町を一望出来るに違いない。
そうにらんだ私は、そこで一人ピクニックをしようと思い立ったのだ。
教会までの道のりはかなりの急勾配であった。
やっと頂上へ着いたときは額に汗をかいていた。
教会は中央の天井が丸く開いており、外へと吹き抜けになっており開放的な雰囲気があった。
壁にそって教会の歴史を伝える写真と短い説明書きが展示されている。
観光地ではないらしく、小さい教会に2~3人の人が思い思い過ごしていた。
私は地元の人に倣ってイエスの前で目を閉じてお祈りをした後、遅めのお昼を取ろうと、外に出てベンチに腰掛けた。
ベンチは町に面して設置されていたのだが、眼下に広がっていた光景は私の予想通り素晴らしいものだった。
小高い丘から見てみると、町が山に囲まれているのが明確にわかった。
ぐねぐねと湾曲した川に沿ってオレンジ色の屋根屋根がひしめき合っている。
緑と水とオレンジのコントラストが鮮やかであった。
2時間ほどはいただろうか。
そろそろ町に戻ろうと思い、来た道とは反対側の下山道に進んだ。
この丘は何百年も前から東西の分岐点として機能して来たらしい。
丘を起点に2つの道が東西に分かれており、町と町をつなぐ中継地としての役目と巡礼の道としての役割を担っていた。
私が西へ降りる道を進んでいくと、そこにはのどかな牧草地が広がっていた。
ところどころに巡礼者のための祠が建っており、祠の屋根までもがオレンジ色で、牧草地の緑と見事なコントランストを生み出していた。
夕方宿で1人で夕食を食べていると、50代くらいの男性から声をかけられた。
彼はハンガリー人であったが、空手有段者で俳句を詠むという大の日本好きであった。
明日のお祭りのために毎年訪れているらしく、私が丘の上の教会に行ったことを伝えると、そこはベストプレイスだと太鼓判を押してくれた。
普段他のゲストと話す際、どこへ行ったとかこれからどこへ行くとか、そういう話しかしないのだが、彼はどういうわけか仕事の話を始めた。
彼は今ある未解読文字を研究しており、最近になって解読出来たらしい。
今度本を出版するのだそうだ。
しかし、私はそんなすごい人が町で一番安いホステルに泊まるだろうか、と彼の話を半信半疑で聞いていた。
嘘か本当か真偽のほどは定かではないが、たとえ嘘だったとしても、その夜は旅のことを忘れて、ふつうの気楽な会話を楽しむことが出来た。